CCIJF – 在仏日本商工会議所

第二十二回:ピルのお話

最近日本人の患者さんでもピルの処方を希望される方が増えてきたように思います。ピルとは経口避妊薬の事で、毎日大体決まった時間に1錠飲むことにより非常に高い確率で避妊できます。成分は卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)で、主として排卵抑制などの機序により避妊効果を発揮します。アメリカでは1960年から、フランスでも1960年代後半から流通し始め、現在フランスでは妊娠適齢期女性の約60%が服用しているそうです。一方日本では治療用としての中用量ホルモン剤はもともと存在していましたが、避妊用のピルが承認されたのは1999年と比較的最近のことで、普及率はまだ数%程度との事です。これほど普及率に差があるのは1)日本では歴史が浅い 2)日本では主に婦人科でしか処方されないがフランスではかかりつけ医(ジェネラリスト)でも処方される3)日本では高い(1ヶ月数千円)がフランスでは安い(1ヶ月2ユーロ位のものが主流)などが原因として考えれるのではないでしょうか?

避妊薬としてのピルは「薬」と名がついてますが、それ自体病気を治すために存在しているわけではないし、避妊方法は他にもありますから、私も積極的にお勧めしているわけではありません。ただし避妊以外にも主に次のような効能がありますので場合によっては非常に有用な薬になり得ます。

1)       生理不順が治り、規則正しく生理が来る。

2)       生理が軽くなり、出血量が減る。

3)       生理痛が和らぐ。 

4)       月経前症候群(イライラなど)が緩和する場合もある

5)       ニキビの緩和に役立つ場合もある。

その他、子宮内膜症の治療などで内服されているかもいらっしゃいます。しかし、どんな薬にも当てはまることですが、副作用も起こりえます。

主なものは次のとおりです。もちろん飲んだら必ず生じるわけではなく何の問題も感じられない事のほうが多いです。

1)       吐き気

2)       不正出血

3)       むくみ、体重増加
                                                               

これらの副作用は通常軽微なもので数ヶ月以内に落ちつくことがほとんどです。

重大な副作用としては

1)  血栓症(小さな血の塊が血管内に生じ、それが肺梗や脳に詰まって重大な病気につながることがあります)

2)  乳がんになる確率が上がる。(かも知れません)

 血栓症はピルを飲んでいない人では0.01%くらいの頻度ですが、ピルを飲んでいる場合0.02%(第2世代ピル)あるいは0.04%(第3世代ピル)程度に上昇するという報告があります。乳がんを引き起こす可能性ついては諸説あり、必ずしも統一見解があるわけではありません。その他、子宮頸がん、肝臓がんのリスクを上昇させるという報告や逆に子宮体がん、卵巣がんのリスクは低下させるという報告もあります。こうなると、一体ピルを飲むことは体に良いのか悪いのか(寿命を延ばすのか)判断しかねますが、2010年にイギリスで報告された大規模な調査では、ピルを飲んだことのある人のほうがむしろトータルの死亡率が低かったという結果になりました。
できるだけピルの副作用を避けるために次に当てはまる人には勧めらません。(抜粋)

    乳がん等

    原因不明の性器出血

    血栓症

    35歳以上で1日15本以上の喫煙者

    肝機能障害

    高血圧

    高脂血症

    妊娠中

    前兆を伴う偏頭痛

これ以外にも内服にあたって注意事項がありますので、医師に相談の上内服するか検討してください。

●参考までに主な日本とフランスのピル対比表を載せておきます(成分量が若干異なる場合あります)。

日本名フランス名備考
オーソM市販中止第1世代 1相性 
オ-ソ777TRIELLA第1世代 3相性 約1ユーロ/月
シンフェーズTRIELLA第1世代 3相性 約1ユーロ/月
トリキュラーTRINORDIOL第2世代 3相性 約1.5ユ-ロ/月
アンジュTRINORDIOL第2世代 3相性 約1.5ユ-ロ/月
マーベロンVARNOLINE第3世代 1相性 
ヤーズYAZ第4世代 1相性 所謂「超低用量ピル」
ノルレボNORLEVOアフターピル 72時間以内 約7ユ-ロ
日本未発売ELLAONEアフターピル 120時間以内 約24ユ-ロ
日本未発売CERAZETTEエストロゲン無添加、所謂「ミニピル」
日本未発売MICROVALエストロゲン無添加、所謂「ミニピル」

2014年5月現在です。値段はフランス内。今後日本でも使える種類が増えるかも知れません。
(個人的に調べましたので、調査漏れなどの可能性があります)

ヤーズは超低用量ピルといわれていますが、それでも血栓症は起こりえます。日本では避妊薬ではなく月経困難症治療薬として処方されるので保険が効きますが、それでもフランスより遥かに高価です。ミニピルにはエストロゲンが入っていないので、35歳以上の喫煙者、授乳中、糖尿病、高血圧、高脂血症などの持病がある人には適しているとされています。