下川 眞樹太 駐フランス日本国特命全権大使
新年明けましておめでとうございます。令和6年(2024年)の年頭に当たり、皆様にご挨拶申し上げます。
昨年は、世界的に蔓延した新型コロナウイルス感染症によって経済・社会活動が制約されていた環境からようやく脱し、人の往来や人が集まった行事、集会等が数年ぶりに従来どおり行える年となりました。他方で、ロシアの侵略に端を発するウクライナでの軍事紛争はまもなく2年を越えようとしており、これに加えて昨年10月のハマスによるテロを契機とするイスラエルによるガザ攻撃、それがもたらしている人道的状況は、イスラエル・パレスチナを中心とする中東、ひいてはこれを取り巻く国際情勢をも緊迫させています。こうした情勢は世界的なエネルギーや食糧の需給や物価水準、また国際的な物流にも影響を及ぼし、更には私たちが暮らすフランスに目を転じれば、さまざまな政治的対立、社会的不安やテロの危険性の高まりが原因となって、我々の経済活動や生活に影を落としています。夏の干ばつに冬の異常降雨・洪水と、フランスでも自然災害が随所に発生している中で、地球温暖化対策について世界各国が話し合うCOP28(国連気候変動枠組条約締約国会議)も昨年11月から12月にかけてドバイで開催されました。
このような国際情勢のなかにあって、いかにして国際社会の分断を防ぎ、国際的な協調・協力を推し進めていくかが常に問われ続けた一年であり、その中でG7の果たすべき役割の重要性が再認識された年でもありました。昨年は日本がG7の議長国をつとめ、5月の広島サミットが、G7及び欧州連合のメンバーの他に8の招待国、7つの国際機関、またゼレンスキー・ウクライナ大統領もゲストとして出席のもと成功裏に開催されるとともに、日本各地で15の関係閣僚会合が開催されました。
日仏政府間に関しては、昨年には1月の岸田総理の訪仏、そして5月のマクロン大統領の訪日による相互往来が行われるとともに、12月の日仏首脳電話会談を受けて、2027年までの日仏間での各分野の具体的な協力内容について総覧する「特別なパートナーシップの下での日仏協力のロードマップ」が発出されました。長年に渡る経済や文化を始めとする各分野に渡る活発な交流が礎となり、また今後の国際的、地政学的な課題に対応するために、価値を共有し、志を同じくするパートナーとして日仏間、ひいては日EU間の具体的な協力を進めることに対する双方の期待の高さを表しております。
在仏日本商工会におかれては、1963年の発足以来、長年に渡りフランスにおいて事業を営む日系企業の活動の基盤をサポートするための取組を一貫して行うとともに、日仏間の経済や産業分野に関するさまざまな交流の促進に大いに貢献されてきました。その功績を讃えて、昨年8月に外務大臣表彰を受賞されたことにお祝い申し上げるとともに、今後も引き続きの日仏間の協力や交流の促進に向けての活動を行っていただくよう、お願いします。
フランス政府においては、2017年のマクロン大統領の就任以来、一貫して①経済・産業の活性化、②気候変動対策のためのエネルギー転換、環境規制の強化、そして③供給網など、経済・産業の自立性・強靱性を高めるための施策を実施しております。例えば、法人税の大幅減税や資産所得税の一律化などの税制見直しを講じるほか、人材育成やスタートアップ企業支援などの施策を通じてフランスを魅力のあるある投資先として工場を呼び戻す「再工業化」のための産業政策を展開しております。昨年激しい議論を呼び、デモなど一部社会的混乱の原因となった、年金制度改革や移民法改正なども、そのような文脈の中で捉えられるべきものであると理解しています。
そのうえで、フランスにおける投資環境の魅力を高めるための重要な要素として、フランスに拠点を設ける外国企業及びその駐在員が、適切な事業や生活を行えるように環境面を整備することの重要性は繰り返し指摘しなければなりません。行政手続きや関係機関の整備など、具体的な問題の解決に向けた対応が必要ですが、大使館としても、在仏日本商工会と連携して、具体的な問題の解決に向けた支援を行っていく所存です。
2024年は、パリで100年ぶりとなるオリンピック・パラリンピックが開催される記念すべき年であります。またその翌年の2025年4月より大阪・関西万博が開催されます。このような機会も最大限に活用しつつ、私が着任時に掲げた3つの課題、①日本にとって特別なパートナーであるフランスとの協力関係の強化、②経済・文化・スポーツを始めとする各分野でのフランスとの協力関係強化や日本の魅力発信、③当地に在留・居住される日本人の皆様の安心と安全の確保を念頭に置きつつ、大使館一丸となって取り組んで参ります。
本年も、何とぞよろしくお願いします。
駐フランス日本国特命全権大使
下川 眞樹太