小売・流通:多屋 智彦/Takashimaya France SA
新年明けましておめでとうございます。
昨年は引き続き堅調に推移する高額品に対する需要と欧米人を中心とした外国人観光客によるインバウンド需要、加えて秋以降における中国人団体観光客の訪日解禁が後押しとなり、大手百貨店各社の業績は過去最高益を記録するなど、たいへん好調に推移しました。
2024年は百貨店各社が一過性の業績伸長に留まるか、それともその後におけるより持続的な成長サイクルをつくっていけるか、分水嶺となるといっても過言ではない、その後の将来に対する影響度の大きい一年になるものと考えております。以下にヒト・モノ・カネという切り口から、百貨店業界における課題と今後の方向性について列挙させていただきます。
ヒト:まず最初に百貨店は労働集約型産業であると言われますが、今なお多くの現場がヒトの介在によって支えられており、その労働生産性を高める為の動きが求められています。これは働き方改革やDX、新型コロナウイルスのパンデミック等により、仕事の仕方や従業員の管理・育成の仕方などについて、社会全体が見直す必要性に迫られているということも背景にあろうものと考えます。そういった中で人的資本経営に基づくアプローチは注目されており、採用→配置&教育→評価→報酬といった人事システム上の各段階において整備を推進することが求められていることに繋がっているものと認識しております。
モノ:次に百貨店は製造現場と消費現場の中間に位置するプレイヤーであり、自社を取り巻くエコシステム全体のバランスを保ちながら活動することが、中長期的に安定した成果を発揮する上で欠かせません。そういった面からは単に目先の利益を追求するのみではなく、社会全体の公平性や持続可能性を踏まえたビジネス戦略(ESG戦略)を推進することもひとつの大切な視点となります。これまでの大量生産大量消費のなかで育まれてきたモノとは一線を画す、新たな個性をもつ商品へのチャレンジを加速させることは、これからの新たな消費環境に合致した商品政策を実現する為の施策であり、また同時にそういった商品を供給していただくサプライヤーとの中長期的な関係性を持続していくための取り組みとして位置づけられます。
カネ:最後に現在、日本では年間約60万人のペースで人口が減少しており、今後はそのペースが更に加速すると言われていることは皆様もご存知の通りですが、これまで「1億総中流」と呼ばれたかつての分厚い中間層の消費需要を取り込んで成長してきた百貨店にとって、たいへん大きいなインパクトをもつ事実であります。つまりこれまで以上にビジネス規模を拡大することの難易度が上がることが必至な環境下で、ビジネス効率を高めていく為の取り組みの重要度は増すばかりであります。これは営業活動・後方作業を問わず、企業活動すべてにおける効率アップを目標としたDXの推進という考え方に繋がり、また資金調達効率までをも視野に入れながら投資効率をより精緻に管理していく為のROIC経営の推進といった考え方などにも通ずるものであると考えております。
以上でございます。
なお末筆ながら、ウクライナやパレスチナにおける状況がはやく収束し、一日もはやくより平和な欧州に戻ることを切に願う次第です。またCCIJF会員皆さまのご健勝を心よりお祈りし年始のご挨拶とさせて頂きます。