下川 眞樹太 駐フランス日本国特命全権大使
新年明けましておめでとうございます。令和7年(2025年)の年頭にあたり、皆様にご挨拶申し上げます。
昨年は、フランス国内外で大きな出来事が数多くありました。特に、7月下旬から9月上旬にかけて東京大会を引き継ぐ形で開催されたパリ・オリンピック・パラリンピックは大成功を収めました。セーヌ川を会場とする斬新な開幕式、4時間にわたるフランスのエスプリに満ちたパフォーマンス、そしてスタッド・ド・フランスをはじめ、コンコルド広場、エッフェル塔、グラン・パレ、アンバリッドなどパリ市内全体を舞台にした大会は、世界中から注目を集めました。日本選手団も、自国開催ではない大会で多くの金メダルと総合メダル数を獲得し、素晴らしい活躍を見せました。特に、日仏両国が競い合った柔道やフェンシングの団体戦は、多くの人々の心に残る熱戦でした。
また、昨年12月7日には、2019年4月の火災を受け修復が進められていたパリ・ノートルダム大聖堂の再公開式典が開催されました。この歴史的建造物が、コロナ禍の困難を乗り越えてわずか5年余りで修復され、一般公開に至ったことは、フランスの文化遺産への情熱と関係者の尽力を示すものであり、式典には多くの世界の要人が参加しました。
フランス国内の政治状況では、6月9日の欧州議会選挙直後にマクロン大統領が国民議会を解散し、6月30日と7月7日に選挙が実施されました。その結果、どの政党勢力も過半数を確保できず、3つの勢力が拮抗するという不安定な政治情勢となりました。その後、9月5日にバルニエ首相が任命され、9月21日に内閣が編成されるまで時間を要しました。さらに、12月4日には予算審議を巡りバルニエ内閣の不信任決議が可決され、翌日には辞職するという例をみない事態となりました。その後、12月13日には中道政党の党首であるバイルー氏が新首相として任命されましたが、右派、また左派と協力し、この混迷する仏政治状況を切り抜けられるかが注目されます。
国際情勢に目を向けると、2024年は多くの主要国で選挙が行われ、リーダーが交代する国も見られました。一方、ロシアによるウクライナ侵略は間もなく3年を迎え、中東では、特に2023年10月のハマス等によるイスラエルに対するテロ攻撃以降、イスラエル・パレスチナ、レバノン、イラン、イエメン等を中心に情勢の緊張が続いています。さらに、シリアにおけるアサド政権の突然の崩壊に始まる一連の事態に象徴されるように、地政学的な不安定が一層深まっています。
こうした情勢の中、国際的な課題への対応を進める上で「特別なパートナー」である日本とフランスが協力することが一層重要になっています。日仏の外交関係は160年以上前の1858年に始まり、ジャポニスムを通じてフランス文化に影響を与え、現代では日本のマンガや和食、日本酒などが広く受け入れられていますが、今が経済・産業・科学技術等の分野での連携や文化面での交流をさらに発展させていく時です。
2025年はいよいよ大阪・関西万博が開催されます。4月13日から10月13日までの半年間、夢洲(ゆめしま)を会場に「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに実施されます。フランスには国際博覧会を統括するBIE(国際博覧会事務局)の本部がパリにあり、フランス自身もこれまでに6度の万博を開催し、そのたびにエッフェル塔やアレクサンドル3世橋、グラン・パレ、プティ・パレなどの歴史的建造物を生み出してきました。今回の大阪・関西万博では、フランスから博覧会公社(COFREX)がパビリオンを出展し、開催期間中にマクロン大統領をはじめ政・官・民の多くの訪問団の訪日が想定されています。この万博を契機に、日仏間の新たな交流がさらに深まることを期待しています。
本年も、日仏間の活発な人的交流が行われ、経済活動や文化交流が進展する上で、当地に拠点を置く日系企業や日本人駐在員が適切な環境で活動を続けられることが求められます。大使館としても、私が着任時に掲げた3つの重点目標――①特別なパートナーであるフランスとの協力関係の拡大と深化、②経済・文化・スポーツなど幅広い分野での日本の魅力発信、③在留邦人の皆様の安心と安全の確保――に基づき、在仏日本商工会と連携しながら具体的な課題解決に取り組んでまいります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
駐フランス日本国特命全権大使
下川 眞樹太