CCIJF – 在仏日本商工会議所

機械・自動車・建設:森本 幸一/JAXAパリ駐在員事務所

新年明けましておめでとうございます。

2024年は、日本と欧州の宇宙輸送機(ロケット)の分野で、マイルストンとなる出来事がありました。日本は、次期大型基幹ロケット「H 3」を2号機以降、3機連続で打上げに成功しました。増加する衛星打上げ需要に対応すべく、2023年に発生したH3初号機の不具合を改善し、安定した運用段階へと歩を進めました。 欧州は、次期大型基幹ロケットの「アリアン6」初号機の打上げに成功しました。

H3及びアリアン6はそれぞれ、商業打上げ用途(営利企業から受注してビジネスとして行う衛星輸送)ロケットである、「H2」シリーズと「アリアン」シリーズの後継機として開発されました。いま、宇宙産業は拡大傾向にあります。政府や市場から寄せられる期待を感じながらの開発であり、ロケット技術の難しさを骨身に染みて知る日本と欧州の経営陣やエンジニアは、互いの成功を讃えあう間柄です。

数十年に一度の頻度で新型を開発する大型ロケットは時に、式年遷宮に例えられることがあります。実際、H3もアリアン6も開発着手から初号機打上げまで10年程度を要しています。今回も、技術や人材という基盤資源の途絶リスクを回避する寸前で成功に漕ぎつけたことで、ナレッジマネジメントの観点からみても、日欧相互に意義があることと解釈しています。

セグメント分類や試算法によって異なりますが、一説には、宇宙産業の規模は500B USドル[1](75兆円, 1ドル=150円換算)になります。そのうちの約80%は測位信号利用や通信、放送などのサービス分野が占めます。打上げ関連は全体の約2%に過ぎません。ですが、衛星などの宇宙機は、宇宙空間に運ぶ手段が無ければ「地上の星」でお蔵入りですから、2%の輸送手段の成否が、市場全体の繫栄のチョークポイントとなります。商業アクターが安心して、安定的で経済的に利用できる輸送機の開発を、各国が優先課題としている理由の端緒がそこにあります。

 米国のSpaceX社は、2019年から通信衛星網構築のためのStarlink衛星の打上げを開始し、この記事の執筆時点で約7,000機[2]以上の人工衛星を軌道に投入しています。完成時には12,000機の構成となるそうです。1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号が軌道投入されて以降、2019年までの人工衛星数は約9000機とされますから[3]、人類が過去約70年で達成した数に匹敵する数の衛星を、イーロン・マスク氏が率いるSpaceX社は、ほんの5年ほどの間に宇宙に運ぼうとしています。輸送手段は、自社の「ファルコン9」ロケットであり、サプライチェーンの観点では強度の垂直統合といえるでしょう。

 日欧は奇しくもそれぞれ、「イプシロン」、「ヴェガ」という小型ロケットの開発で不具合が生じ、共に試練の時を経験していますが、ロケット技術は研究開発要素も多く残された領域です。式年遷宮の例えではないですが、世界の衛星の輸送手段が、ある特定の国の宮大工さん頼みである状況は最適解とはいえず、世界各国が途切れることなく、経済的に、市場に輸送手段の選択肢を複数提供することは、マーケットの指数関数的な発展に必要な要素です。2025年以降も、宇宙マーケット全体の動向と共に、輸送機の開発動向や開発に取り組むスタートアップ企業さんの動向に注目頂ければと存じます。

 この記事をお読みくださる皆様の、本年の益々のご発展とご多幸を祈念いたします。


[1] Space Economy Report 2023, Euroconsult, 2024 (P.15)

[2] Jonathan’s Space Report | Space Statistics

[3] Index of Objects Launched into Outer Space, UNOOSA