銀行・証券・保険:塚田 章之/MUFG Bank, Ltd. Paris Branch
新年明けましておめでとうございます。
2023年を振り返りますと、中国のゼロコロナ政策解除や日本の新型コロナウィルスの5類移行等、控えられていたイベントや旅行が本格的に再開され、お客様や本邦からの出張者など多くの方と面前で接する機会もコロナ前の水準に戻ってきたことを実感する年でした。一方、米中対立、ウクライナ紛争、ガザ情勢に象徴される地政学リスクの高まりや、世界中で見られた記録破りの異常気象による地球温暖化の影響深刻化、また各国中央銀行による急激な金融引き締めとその効果の累積による影響など、経済的暗雲が彼方から迫っているように感じられた方もいるのではないかと思います。
欧米金融市場では市場参加者の関心が、利上げから現状の政策金利水準をいつまで維持するかに移るにつれて、先行きの利上げ期待が剥落しました。加えて、底堅い欧米景気、対して日銀総裁交代による早期金融正常化期待が後退するにつれ、ボラティリティは低位漸減していき、株価は高値を目指す展開となり、為替市場ではドル円は32年ぶり、ユーロ円は15年ぶりの水準に一時は円安が進行しました。
貸出取引においては、ユーロ圏全体の企業設備資金需要がECBの利上げに伴う借入コスト増加等を背景に減少しましたが、フランスにおいては底堅い個人消費を背景とした堅調な経済に加え、サスティナビリティ関連のプロジェクト投資等のビジネスも堅調に推移しており、低ボラティリティ環境も後押しする形で債券発行市場も堅調に推移しました。
さて、足元の世界経済観[1]は、今後、金融引き締め効果の累積等によるインフレ鎮静化を経て、巡航速度での成長軌道へと回帰していく方向とみておりますが、軟着陸実現のためにクリアすべき課題や条件が依然多い認識です。例えば、米中対立やウクライナ紛争は長期化しても極度の激化は避けられる、ガザ情勢は局地戦に止まる、米商業用不動産向けの融資基準厳格化による信用不安による金融システム全体への波及は限定的に止まる、中国の不動産起因の景気下押しは長期化も中国政府・中銀が主導する金融支援強化による安定した金融システムの継続がなされる、等が挙げられます。
ユーロ圏の景気動向は、資源価格の下落が食品やコア財価格へと波及し、総合ベースのインフレ率は足元2%台半ばまで低下しており、先行きは賃金上昇が鈍化し、コアサービス価格の伸びも低下することで、実質所得の更なる増加を背景に個人消費が持ち直す見込みです。もっとも、利上げ効果の累積効果が景気回復の重石になることに加え、ドイツの旧型工業品を柱とした輸出の構造的不況も長引くとみられることから、実質GDP成長率は2024年は前年比+0.7%と小幅な成長に止まるとみております。掛かる見通しですが、フランスはユーロ圏で相対的に堅調を維持すると思われます。理由として、フランスの個人消費は他国に比べてインフレの影響が限定的であったこともあり、堅調に推移していることが挙げられます。
2024年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
[1]2023年12月9日時点の弊行見通しとなります。