CCIJF – 在仏日本商工会議所

第十八回:橋本病のお話

橋本病のお話

「橋本病」という名前をお聞きになったことはあるでしょうか。

1912年、九州大学の橋本策博士がこの病気を発表したことから、欧米でも「Hashimoto Disease」と呼ばれております。甲状腺という臓器に慢性の炎症が起きる病気です。その炎症の原因は、「自己免疫」というものです。「免疫」とは本来ならば外敵から自分の体を守る働きのことですが、それが逆に自分の体に反応してしまっている状態を自己免疫と言います。つまり橋本病の場合、自分の免疫系が自分の甲状腺に反応し攻撃してしまい、その結果、甲状腺に炎症が起きている状態なのです。橋本病の場合、甲状腺に炎症があるだけでは特に問題はありません。ほとんどの橋本病の患者さんは、ただ甲状腺が腫れているだけで、甲状腺機能は正常です。中年女性の10人に1人はいると言われていますが、甲状腺機能が正常であれば特に問題はありません。ただし、炎症が進むと、甲状腺の腫れが目立つようになったり、甲状腺の働きが低下してくることがあります。さらに、経過中に甲状腺ホルモンが高くなることもあり、バセドウ病と間違えられることがあります。そのような場合は、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になり、「発汗」「動悸」「体重減少」などの症状がでます。しかし、バセドウ病と違って、炎症が治まると、甲状腺機能は数カ月で正常な状態に戻ります。

橋本病の方のうち、2割程度に甲状腺機能低下症がみられ、「皮膚がかさかさする」「顔や手がむくむ」「寒がり」「便秘」「あまり食べないのに太る」「髪の毛が抜ける」「生理の量が多い」「物忘れしやすい」などの症状が表れます。中年以降の女性にはよくある症状ですので、これらの症状があっても甲状腺機能低下症とは限りませんが、気になる症状があるときは、一度甲状腺機能の検査を受けられたほうが良いでしょう。採血でホルモン数値を確認することで診断することができます。特に高齢の女性に多いので、50歳以上の女性は無症状であっても年に1度は甲状腺の検査をすすめる医師も少なくありません。

甲状腺機能低下には治療が必要な場合があります。体にはっきりとした症状を感じなくても、甲状腺ホルモン不足が長期間続くと心臓の働きが悪くなったり、肝臓の機能が低下するなど、新陳代謝の低下による影響がさまざまな臓器に出てきます。また、血液中のコレステロールの濃度が上がって、動脈硬化を早めたりすることもあります。

治療としては、主に内服薬で甲状腺ホルモンを補充することで、次第に甲状腺ホルモンの量が正常になっていき、症状が改善し普段と変わらない生活を送れるようになります。